動画講義は「途中の小テスト」で身につく——心がさまよう割合がおよそ半分に
動画講義を見ていると、気づけば心がさまよって内容が入らない。ハーバード大学の実験では、講義の合間に自分で答える小テストを挟むと、心がさまよう割合がテストなしの群のおよそ半分に下がり、直後のテストの正答率も上がりました。今日から動画学習で試せる手順をまとめました。
動画の講座を1.5倍速で流し見して、最後まで見終えた。達成感はあるのに、内容を聞かれると何も答えられない。
画面はずっと見ていたはずなのに、途中から頭の中は別のことを考えていた——そんな心当たりはないでしょうか。
これは意志の弱さではなく、動画という形式そのものの弱点かもしれません。講義の合間に短いテストを挟むだけで、この弱点を補えることが実験で確かめられています。
講義の合間に自分で答えるテストを挟むと、心はさまよいにくくなる
手がかりは、ハーバード大学のスパナーらが2013年に発表した実験です。掲載誌は米科学アカデミー紀要(PNAS)でした。
学部生48人に、21分の統計学入門の動画講義を見てもらいます。講義は4つの区切りに分けられています。
学生は3つのグループに分かれました。①区切りごとに自分で答えるテストを受けるグループ、②同じ質問と答えのペアをただ読むだけのグループ、③何も挟まれないグループです。
講義の途中、実験者はランダムなタイミングで「今、心はさまよっていましたか」と尋ねました。「はい」と答えた割合は、テストに自分で答えたグループで19%。ただ読むだけのグループで39%、何もないグループで41%でした。
自分で答えるテストを挟んだグループだけ、心がさまよう割合がおよそ半分にとどまっていたのです。
ノートの量も、直後のテストの点数も上がった
このグループは、ノートの取り方も変わっていました。スライドに自分で書き足したメモがあった割合は、テスト群24%。ただ読むだけの群は9%、何もない群は7%でした。
直後に行われた24問の記述式テストでも、差ははっきり出ています。
見てのとおり、正答率が高かったのは、自分で答えるテストを受けたグループだけです。同じ質問と答えをただ読んだグループは、何も挟まれなかったグループとほぼ同じ点数でした。
別の実験(参加者32人)でも、同じ傾向が出ています。テストを挟んだグループの正答率は84%、挟まなかったグループは59%でした。
興味深いのは、テストを受けた学生のほうが、最終テストへの不安や、講義を負担に感じる度合いも低かったことです。テストは負担を増やすどころか、むしろ気持ちを軽くしていました。
効くのは「自分で答える」テストだけ
ここで見逃せないのが、②の「ただ読むだけ」のグループです。テストと同じ質問と答えのペアを見せられただけで、自分では答えていません。
このグループの心のさまよいと点数は、③の何もしなかったグループとほとんど変わりませんでした。
つまり、テストに関係のある内容を目にするだけでは足りません。答えを見る前に、自分の記憶だけで一度絞り出す。この一手間が効いていました。
なぜ効くのか——「思い出す一手間」が注意を引き戻す
ここまでの結果に共通するのは、内容を目にしたかどうかではなく、自分の記憶だけで答えを絞り出したかどうかです。
研究チームはこの結果を、注意の向け方で説明しています。自分で答えを組み立てている間、頭は講義の内容に強く引き戻されます。その分、講義と関係のない考え(心のさまよい)が入り込む余地が減る、という見方です。
言いかえると、テストは「覚えているか確認する道具」であると同時に、「注意を今の内容へ引き戻すきっかけ」でもあるわけです。
だから、選択肢から選ぶだけの問題や、答えをなぞるだけの復習では、同じようにはいきにくくなります。効くのは、自分の言葉で答えを組み立てる負荷そのものだからです。問いは、既製のクイズより、自分で作った一言のほうが力を持ちます。
今日から動画学習で試す手順
やることは、一時停止ボタンを押すだけです。
- 区切りを決める: 動画は5分おきか、話題が変わるタイミングで一度止める
- 声か紙で言ってみる: 直前の内容を、自分の言葉で20秒〜1分ほど言ってみる
- 記憶だけで絞り出す: すぐ巻き戻さず、まず答えを一度出し切る
- 曖昧な所だけ確認する: 出てこなかった所だけ、巻き戻して確かめる
- 最後に読み返す: 見終えたら、区切りごとのメモをざっと読み返す
場面ごとに、止める場所と問いはこう変えられます。
社内研修のeラーニング動画なら、章の切り替わりで一時停止します。「今の章の要点は」を、自分の言葉でメモ欄に書き出してから次へ進みます。
Udemyなどのオンライン講座で内蔵クイズが用意されているなら、クイズを開く前が勝負です。まず自分の答えを頭の中で決めてから、クイズを解きます。
区切りが用意されていないYouTubeの解説動画では、話題が変わる瞬間を自分で見つけて止めます。「今の話を一文でまとめると」と、自分に問いかけます。
場面は違っても、やることは一つです。答えを見る前に、まず自分の記憶を使うことです。
ここは慎重に受け取ってください
この実験は参加者32人・48人と少人数で、対象もハーバード大学の学部生、講義も21分の統計学入門1本に限られます。
2022年には、大学生195人・52分の講義で、同じ仕組みを大規模に確かめ直した研究があります(ウェルハフら)。
心がさまよう割合は、テストを挟んだグループのほうがやはり低い結果でした。ただし効果の大きさは元の実験よりだいぶ小さく、直後のテストの点数には、はっきりした差が出ませんでした。
つまり、テストを挟むと心はさまよいにくくなる、という点までは再現性があります。一方で、点数が必ず上がるとまでは言い切れません。講義が長くなるほど、効果は小さくなる可能性があります。
それでも、コストはゼロです。一時停止して思い出す一手間を、今日の動画学習に足してみてください。
思い出す練習そのものの効き方は、本を閉じて思い出す勉強法にまとめています。間隔をあけて復習する話は、分散学習で扱っています。学び方を鍛える発想は、学びの柱でも続けています。
次に動画講座を開いたら、まず1回だけ、区切りで止めて思い出してみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 動画は5分おきか話題の変わり目で一度止める
- 止めたら直前の内容を20秒、声か紙で言ってみる
- 答えを見る前に、記憶だけでまず絞り出す
- 曖昧だった所だけ巻き戻して確認する
- 見終えたら、区切りごとのメモを読み返す
出典・参考
- Szpunar, K. K., Khan, N. Y., & Schacter, D. L. (2013) Interpolated memory tests reduce mind wandering and improve learning of online lectures. Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(16), 6313-6317.(ハーバード大学の学部生を対象に、21分の統計学講義を4区切りに分け、自分で答えるテストを挟むグループ・同じ質問と答えをただ読むだけのグループ・何も挟まないグループを比較。テスト群は心がさまよう割合が低く、ノートの量と直後のテストの正答率が高かった)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Welhaf, M. S., Phillips, N. E., Smeekens, B. A., Miyake, A., & Kane, M. J. (2022) Interpolated testing and content pretesting as interventions to reduce task-unrelated thoughts during a video lecture. Cognitive Research: Principles and Implications, 7, 26.(大学生195人・52分の講義で追試。テストを挟むと心がさまよう割合が下がる傾向は再現されたが効果量は小さく、直後のテストの成績には有意差が出なかった)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。