退屈な話は「落書き」しながら聞く——手を動かすと注意が切れにくかった研究
Focus / Research Digest

退屈な話は「落書き」しながら聞く——手を動かすと注意が切れにくかった研究

オンラインの説明会や長い会議で、気づけば心が別のことへ。手持ち無沙汰でスマホを触ってしまう。40人の実験では、退屈な音声を『塗りつぶし』しながら聞いた人のほうが、あとで思い出せた項目が3割ほど多いという結果でした。近年の再検証もあわせて、使いどころを整理します。

オンラインの説明会。話は単調で、声も平坦。10分もすると、頭のなかでは夕飯の献立や、返していないメッセージのことを考えている。

手持ち無沙汰で、つい別のタブやスマホに手が伸びる。そして、あとで「何の話だったっけ」と思い出せない。

そんなとき、手元でペンを軽く動かしていた人のほうが、話をよく覚えていた——そんな研究があります。

「落書きしながら」のほうが、あとで思い出せた

イギリスの心理学者ジャッキー・アンドレイドは、2010年にこの疑問を調べました。掲載誌は Applied Cognitive Psychology です。

参加者は40人。全員に、約2分半の退屈な留守番電話メッセージを聞かせました。パーティに来る人の名前を書き取る、という単調な課題です。

このとき、片方のグループには、印刷された図形を塗りつぶす軽作業をしながら聞いてもらいました。自由な絵ではなく、考えなくていい「手作業」です。

聞き終わったあと、予告なしの記憶テストがありました。名前と、ついでに出てきた地名を、思い出せるだけ挙げてもらいます。

結果、塗りつぶしをしていた群のほうが、思い出せた項目が多くなりました。名前と地名を合わせて平均7.5項目。何もしなかった対照群は5.81項目でした。

下の図が、その差です。

退屈な留守番電話の音声を聞かせた実験の結果を示す2本の棒グラフ。そのまま聞いた対照群は平均5.81項目、図形の塗りつぶしをしながら聞いた群は平均7.5項目を想起し、約3割多かったことを表す。参加者は40人。
図1: 退屈な音声を塗りつぶしながら聞くと、思い出せた項目が3割ほど多かった(当サイト作成)

差は約3割。手を軽く動かしていただけで、話の中身が頭に残りやすかったことになります。

なぜ「手を動かす」と話が残るのか

考えられている筋道は、こうです。

話が退屈だと、心は勝手に別のことへ飛んでいきます。この心の彷徨は、起きている時間のかなりの割合で起きる自然な現象です。

そこへ、塗りつぶしのような軽い手作業を挟む。すると、退屈で完全に放心してしまうのを、ほどよく食い止められる——アンドレイドはそう考えました。

ポイントは「軽い」ことです。手作業が重いと、今度はそちらに注意が奪われ、話が入らなくなります。塗りつぶしは頭をほとんど使わないので、話を聞く余力が残ります。

ただし、これはあくまで仮説です。この研究は「心がどれだけさまよったか」を直接は測っていません。手を動かすと本当に放心が減るのかは、この実験だけでは断定できません。

ここは慎重に受け取ってください

心強い話ですが、鵜呑みにはできません。理由が3つあります。

1つ目。参加者は40人と少なく、しかもほとんどが女性でした。あなたや職場の人に同じだけ効くとは限りません。

2つ目。効果が出たのは「退屈で単調な音声を、ぼんやり聞く」という特定の場面です。難しい話や、しっかり理解したい話に、そのまま当てはめることはできません。

3つ目が大きい。2024年に、参加者222人でこれを検証し直した研究があります。掲載誌は Quarterly Journal of Experimental Psychology です。

そこでは、落書きは退屈も心の彷徨も減らさず、注意や記憶も高めませんでした。むしろ、ふつうにメモを取るほうが成績が良かったのです。

つまり「落書きで記憶が上がる」は、まだ確かめきれていません。小さな古い研究が示した一手で、より大きな新しい研究では再現されていない。そう理解しておくのが誠実です。

使いどころは「退屈で、メモが要らない聞き取り」

では、この一手はどんな場面で役立つのか。条件を絞ると、こうなります。

覚える必要がなく、ただ最後まで席を立てない、退屈で一方向な音声。たとえばオンラインの一斉説明、待ち時間の案内放送、聞き流すだけのウェビナー。

こういう場面で、放心してスマホをいじるくらいなら、手を軽く動かすほうがまし、という位置づけです。手順はシンプルです。

  1. 手元に、考えなくていい単純作業を1つ置く(塗り絵、図形の塗りつぶし、簡単な模様の反復など)
  2. 話を聞きながら、その手作業をゆっくり続ける
  3. スマホは机に伏せる。SNSや通知は、手作業と違って心を別世界へ連れ去るからです

逆に、内容をきちんと覚えたい会議や授業では、この手は使いません。そこはメモが勝ちます。スマホでのながら作業が理解を落とすことも、別の研究でわかっています。

まず、次の退屈な音声で

落書きは魔法ではありません。集中を仕組みで守る発想は集中の技術にまとめています。

でも、放心してスマホに逃げるくらいなら、ペンを1本持って手を動かすほうが、話はいくらか頭に残るかもしれません。

次に退屈な一方向の音声を聞くときだけ、紙とペンを手元に置いて、軽く手を動かしてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 使う場面を選ぶ:メモが要らない、退屈で一方向な音声のときだけにする
  2. 手元に単純作業を1つ用意する(塗り絵・図形の塗りつぶしなど、考えなくていいもの)
  3. スマホは避ける。SNSや通知は別世界へ連れ去るので、紙とペンにする
  4. 内容を覚えたい場面では、塗りつぶしよりメモ書きを優先する
  5. 効かない日は責めない。これは小さな研究由来の一手で、万能ではない

出典・参考

  1. Andrade, J. (2010) What does doodling do? Applied Cognitive Psychology, 24(1), 100–106.(査読誌。40人に約2分半の退屈な留守番電話メッセージを聞かせ、片方は印刷図形を塗りつぶしながら聞いた。抜き打ちの記憶テストで、塗りつぶし群は名前と地名を合わせて平均7.5項目、対照群は5.81項目を想起し、約29%多かった)doi.org
  2. Spencer-Mueller, E. K., & Fenske, M. J. (2024) Note-taking for the win: Doodling does not reduce boredom or mind-wandering, nor enhance attention or retention of lecture material. Quarterly Journal of Experimental Psychology.(査読誌。参加者222人の2実験で、講義映像を用いた再検証。落書きは退屈も心の彷徨も減らさず、注意や記憶も高めなかった。ノートを取る方が成績が良かった)pmc.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。