考えるときは視線を外す——画面から目を離すと思い出しやすくなる
Focus / Research Digest

考えるときは視線を外す——画面から目を離すと思い出しやすくなる

会議で名前が出てこない、メールの一文が浮かばない。画面を見つめるほど考えがまとまらない。そんなとき、視線を外す・目を閉じるだけで思い出しやすくなります。目に映る情報が頭の作業スペースを空ける仕組みを、研究と限界から手順にまとめました。

「あの人の名前、なんだっけ」。会議中、相手の顔を見ながら考えても、出てこない。

メールの書き出しも同じです。画面を見つめるほど、次の一文が浮かばない。

そんなとき、ためしに視線を外してみてください。窓の外や、何もない壁のほうへ。ふっと言葉が戻ることがあります。

原因は頭の回転ではないのかもしれません。目に映る景色を処理するだけで、考える力が食われている。そんな見方があります。

視線を外すと、考える作業が進んだ

心理学者のグレンバーグらは1998年、人が難しい問いに答えるときの視線を調べました。掲載誌は Memory & Cognition です。

大学生を対象に、5つの実験をしています。分かったのは、問いが難しくなるほど、人は自然と相手や画面から目をそらすということ。

さらに、目をそらした人のほうが、少し難しい問いに正しく答えられました。恥ずかしさや癖ではなく、そらすこと自体に働きがあったのです。

研究者の見立てはこうです。目をそらすと、目の前の景色を処理する負担が減る。空いた分を、思い出す・考える作業に回せる。

つまり、見ないことが助けになります。

なぜ見ないほうが思い出せるのか

手がかりが、別の研究にあります。

フレデフェルトらは2011年、目を閉じると記憶がどう変わるかを調べました。こちらも Memory & Cognition です。

映像で見た出来事を思い出す実験で、目を閉じた人のほうが、正しい細部を多く思い出せました。目を閉じると頭の負担が減り、思い描く力が上がったと報告されています。

2014年の総説(フレデフェルトとパーフェクト)は、こうまとめています。周りの景色から目を離すと、その処理に使っていた力を、目の前の課題に回し直せる、と。

下の図が、同じ「頭の作業スペース」の使われ方の違いです。

左は「画面を見つめたまま」で、頭の作業スペースを表す縦のバーの上6割を『見える景色を処理する』オレンジの帯が占め、下4割にしか『考える作業』の緑が残っていない。右は『視線を外す・目を閉じる』で、同じ広さのバーのうち『見える情報(減る)』のオレンジが上2割に縮み、下8割まで『考える作業に集中できる』緑が広がっている。スペースの広さは左右で同じで、見える情報に渡す割合だけが変わることを対比した図
図1: 広さは同じ。変わるのは、見える情報に何割を渡すかだけ(当サイト作成)

見てのとおり、頭のスペースの広さは変わりません。変わるのは、そこに景色の処理を何割入れるかだけです。

ここは冷静に見ておきます。確かめられているのは、主に「思い出す」場面です。対象も学生や実験・調査が中心で、どんな作業にも同じだけ効くとは限りません。

そして、読む・見る作業そのものには使えません。画面の文字を追う手は止められないからです。効くのは、頭の中だけで考える一瞬です。

会議中でも、画面の前でも使える

使いどころは、答えや言葉を「頭の中から取り出す」一瞬です。

会社員なら、会議で数字や名前を思い出すとき。相手の顔を見つめず、手元やテーブルの空きへ目を落とす。それだけで浮かびやすくなります。

個人開発者なら、次の一手を組み立てるとき。エラーで埋まった画面から目を離し、壁のほうを2〜3秒見る。頭の中で筋道を立て直せます。

学生や資格試験の受検者なら、覚えた内容を引き出すとき。問題用紙をにらみ続けず、いったん目を閉じて思い出す。

コツは、外す先を「情報の少ない場所」にすること。別のスマホやポスターに目を移すと、また処理が始まってしまいます。

机まわりの情報量そのものを減らす話は視界の片づけに、頭の心配ごとを紙へ降ろす話は本番前の書き出しにまとめています。どれも「頭の作業スペースを空ける」という同じねらいです。

今日から試す「3秒の視線外し」

道具はいりません。順番はこうです。

  1. 思い出せない・言葉が浮かばないと感じたら、いちど手を止める
  2. 画面や相手から視線を外し、何もない方向へ目を向ける(または軽く目を閉じる)
  3. そのまま2〜3秒、頭の中の作業だけに向ける
  4. 浮かんだら視線を戻し、書く・話すに戻る

慣れると、会議でも面接でも自然にできます。目のやり場を変えるだけです。

集中を仕組みで守る発想は集中の技術でまとめています。

つぎに言葉が出てこなくなったら、画面をにらむのをやめて、いちど視線を外してみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 思い出せない・言葉が浮かばないと感じたら、いちど手を止める
  2. 画面や相手から視線を外し、何もない方向へ目を向ける(または軽く目を閉じる)
  3. そのまま2〜3秒、頭の中の作業だけに向ける
  4. 浮かんだら視線を戻し、書く・話すに戻る

出典・参考

  1. Glenberg, A. M., Schroeder, J. L., & Robertson, D. A. (1998) Averting the gaze disengages the environment and facilitates remembering. Memory & Cognition, 26(4), 651-658.link.springer.com
  2. Vredeveldt, A., Hitch, G. J., & Baddeley, A. D. (2011) Eyeclosure helps memory by reducing cognitive load and enhancing visualisation. Memory & Cognition, 39(7), 1253-1263.link.springer.com
  3. Vredeveldt, A., & Perfect, T. J. (2014) Reduction of environmental distraction to facilitate cognitive performance. Frontiers in Psychology, 5, 860.pmc.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。