集中できないのは目標が漠然としているから——「1つ」に絞ると注意が定まる
やることは多いのに、あれこれ気になって手が止まる。それは意志の弱さではなく、向かう先が漠然としているせいかもしれません。目標を1つ、具体的に決めると注意がそこへ集まる——研究をもとに、今日の作業でできる決め方を、限界も添えてまとめました。
やることは山ほどある。メール、資料、あとで返すあの連絡。
どれから手をつけるか決まらないまま、あれこれ気になって、手が止まる。
「気合いが足りないのかな」と、つい自分を責める。
でも、注意が散るのは意志の弱さではないかもしれません。向かう先が、まだ「頑張る」のままだからです。
「頑張る」より、具体的な目標のほうが成績が高い
手がかりになるのが、ロックとレイサムが2002年にまとめた総説です。掲載誌は American Psychologist でした。
これは、目標と成績の研究を35年ぶん整理したものです。そこでくり返し確認されたのは、シンプルな事実でした。
「ベストを尽くそう」と言われた人より、具体的で、少し難しい目標を持った人のほうが、成績が高い。
なぜでしょうか。目標には4つの働きがあり、その筆頭が「注意を向ける」ことだからです。目標は、注意と行動を、目標に関係のあることへ向け、関係のないものから遠ざけます。
つまり、はっきりした行き先があると、注意はそこへ集まる。行き先が「頑張る」だと、どこにも定まらず散っていく。
別のグループによる集計もあります。クラインゲルトらは2011年、目標と成績の研究49件ぶんの結果を1つに束ねました(メタ分析)。掲載誌は Journal of Applied Psychology です。
ここでも、具体的で難しい目標を持ったほうが、漠然とした目標より成績が高いという差は、安定して出ていました。
下の図が、「頑張る」だけのときと、具体的な目標が1つあるときの違いです。
見てのとおり、変わるのは気合いの量ではありません。注意の「向かう先」が、ひとつに定まるかどうかです。
ただし、押さえておきたい限界があります。ロックとレイサムのものは個々の実験ではなく、多くの研究を見わたした総説です。クラインゲルトらが束ねたのは、主にチーム単位の成績でした。
どちらも測っているのは仕事や課題の「成績」で、あなたの集中が何分続くかを直接はかったわけではありません。効き方には個人差もあります。
デスクでの「具体的な目標」の作り方
では、机の前で「具体的な目標」はどう作るのか。コツは3つです。
1つ目は、何を・どれだけ・いつまでを、1行に入れること。「資料をやる」ではなく「11時までに、A社向け資料の見出しを3本」。数字と締めが入るほど、行き先はくっきりします。
2つ目は、少しだけ背伸びさせること。楽々終わる目標だと、注意はすぐ緩みます。今の自分がやや頑張れば届く線を引きます。
3つ目は、1つに絞ること。メールも資料も連絡も、と3つ同時に気にすると、注意も3つに割れます。今から向き合う1つだけを、前に出します。
個人開発でも勉強でも同じです。「アプリを進める」より「この画面のボタンを1個、押せるところまで」。「英語をやる」より「単語カードを20枚、1周する」。
作業中に気がよそへ行きやすいなら、心がよそへ行くと集中も下がるもあわせてどうぞ。
今日から試す「目標を1つ、具体的に決める」
やることはシンプルです。作業を始める前の30秒で、行き先を1つ決めます。
- これから取りかかる作業を1つだけ選ぶ(30秒)
- その作業を「何を・どれだけ・いつまで」の1行に書き直す。例:「30分で、企画書の見出しを3本」
- その1行を、紙かメモに書いて、目に入る場所に置く
- 作業中に気が散ったら、その1行を読み返して注意を戻す
- 1行が大きすぎると感じたら、今日やるぶんだけに絞り直す
ポイントは、始める前に決めることです。走り出してからでは、注意はもう散り始めています。
集中を仕組みで支える考え方は、集中の作り方にまとめています。
うまくいかないとき・向いていない場面
決めても集中できないときは、目標が大きすぎることが多いです。「資料を仕上げる」は1日仕事で、行き先としては遠すぎます。今の30分で届くサイズまで削ってください。
逆に、慣れない作業や、答えの見えない作業では、数値の目標がかえって重しになることがあります。そういうときは「成果を何個」ではなく「やり方を1つ試す」を目標にするほうが動けます。
締め切りが遠くて実感がわかないなら、途中に自分で小さな区切りを刻む手もあります。その作り方は締め切りを途中に刻むにまとめました。
効き方には個人差があります。ここで扱っているのは日々の注意の向け方の話で、心身の不調そのものへの対処ではありません。集中が続かない状態がつらく長引くなら、休息や受診を先にしてください。
大がかりな準備は要りません。次に手が止まったら、行き先を1つだけ、具体的に書く。それだけで、注意は戻る先を持てます。
Try Today今日からやるチェックリスト
- これから取りかかる作業を1つだけ選ぶ
- その作業を「何を・どれだけ・いつまで」の1行に書き直す
- その1行を紙かメモに書き、目に入る場所に置く
- 気が散ったら、その1行を読み返して注意を戻す
- 1行が大きすぎたら、今日やるぶんに絞り直す
出典・参考
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002) Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705-717.(目標と成績の研究を35年ぶん整理した総説。目標が注意と行動を目標関連のことへ向け、無関係なものから遠ざける「方向づけ」を4つの働きの筆頭に挙げる)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Kleingeld, A., van Mierlo, H., & Arends, L. (2011) The effect of goal setting on group performance: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 96(6), 1289-1304.(研究49件ぶんの効果量を束ねたメタ分析。具体的で難しい目標のほうが漠然とした目標より成績が高いという差が安定して出た。対象は主に集団単位の成績)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。