好きなことにご褒美は逆効果——やる気を奪う「過正当化効果」
子どもの勉強にお小遣い、好きだった趣味を仕事に。もともと楽しくてやっていたことに報酬を絡めると、かえってやる気が下がることがあります。お絵かきの実験と128件の研究をまとめた分析から、報酬の落とし穴と、好きな気持ちを守る使い方をまとめました。
「勉強したらお小遣い」で、子どもは机に向かうようになった。でも、お小遣いをやめたら、勉強もやめてしまう。
好きで描いていた絵。仕事の依頼が来るようになったら、いつのまにか楽しくなくなった。
やる気を出させるはずの報酬が、なぜか逆に、やる気を奪ってしまう。この現象には名前がついています。
好きなことに「ご褒美」を足すと、興味が下がった
きっかけは、スタンフォードの保育園で行われたお絵かきの実験です。
もともとお絵かきが好きな幼児を、3つのグループに分けました。
- 先に「ご褒美(賞状)」を約束してから描く
- 何も言わず描かせ、後でご褒美を渡す(本人は予期していない)
- ご褒美なしで描く
数日後、自由時間に子どもが自分から絵を描くかを、こっそり観察しました。
すると、絵を描く時間が減ったのは「先にご褒美を約束された」グループだけでした。ほぼ半分に落ちています。
予期せずもらった子と、何ももらわない子は、変わりませんでした。
これは1つの実験だけの話ではありません。
同じテーマの実験を128件集めてまとめた分析でも、同じ向きが出ています。
期待された物のご褒美(お金や賞品)は、内発的な動機——「面白いから、自分からやりたい」という気持ち——を押し下げる傾向がありました。
意外な点もあります。言葉によるねぎらいや前向きな声かけは、逆に内発的な動機を高めていました。
ただし、これは平均的な傾向です。効果が強く出るのは「先に期待させる、物にできる報酬」のとき。物のご褒美による下がりやすさは、大人より子どもで目立つとも報告されています。
どんな場面で「逆効果」が起きるか
日本の日常にも、同じ構図の場面があります。
- 子どもの勉強や読書に、お小遣いやポイントをつける
- 好きだった趣味を、仕事や副業にする
- 社内の表彰やインセンティブで、もともと好きな仕事を評価する
共通するのは、もともと「好きでやっていた」ことに、後から外の報酬をぶら下げた点です。
「報酬のためにやっている」と感じ始めると、報酬が消えたときに行動も止まりやすくなります。
一方で、行動そのものに溶けこんだ「今すぐの楽しさ」は、続ける力になります。ここは矛盾ではありません。
効くのは行動と一体の楽しさで、逆効果になりやすいのは外から吊るす物のご褒美です。続ける楽しさの足し方は三日坊主は意志のせいじゃないにまとめました。
好きな気持ちを守る、報酬の使い方
好きなことを長く続けたいなら、報酬の扱いを少し変えるだけで済みます。
- 好きなことには、お金やポイントを絡めない。 すでに自分から楽しめている行動には、ご褒美を足さないほうが安全です。
- 報酬より「できた実感」を使う。 続けた回数を記録し、積み上がりを目で見る。数字が伸びる手ごたえ自体が、次の一回を引き寄せます。
- 人を動かすなら、物より言葉を先に。 子どもや部下には、賞品の前に具体的なねぎらいの言葉をかける。
進捗を「集める」形にすると続けやすくなります。やり方は集める仕組みは続くにまとめました。
それでも報酬を使いたい場面はあります。そのときは事前に約束せず、サプライズにするか、中身の分からないご褒美にすると、やる気を削りにくくなります。
まずは今日、自分が「好きでやっていること」を1つ思い浮かべてください。そこにお金やポイントを絡めていないか、確かめるところから始められます。
習慣を意志ではなく仕組みで支える発想は、習慣化の歩き方にまとめています。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 続けたい「好きなこと」には、お金やポイントのご褒美を絡めない
- やる気の元は報酬より、進捗の記録など「できた実感」にする
- 人を動かすときは、物のご褒美より言葉のねぎらいを先に使う
- どうしても報酬を使うなら、事前に約束せずサプライズにする
出典・参考
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999) A Meta-Analytic Review of Experiments Examining the Effects of Extrinsic Rewards on Intrinsic Motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627-668.home.ubalt.edu
- Lepper, M. R., Greene, D., & Nisbett, R. E. (1973) Undermining Children's Intrinsic Interest With Extrinsic Reward: A Test of the 'Overjustification' Hypothesis. Journal of Personality and Social Psychology, 28(1), 129-137.heartofcharacter.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。