勉強する場所を変えると、本番で思い出しやすい——記憶は場所とセットで残る
Learning / Research Digest

勉強する場所を変えると、本番で思い出しやすい——記憶は場所とセットで残る

覚えたはずのことが、本番になると出てこない。原因の一つは、勉強した場所とのつながりかもしれません。記憶は場所や状況と結びついて残るため、いつも同じ机だと、その場所でしか引き出しにくくなります。場所を変えて覚える練習で本番に強くする方法を、研究の限界も添えてまとめました。

資格の勉強も、テスト勉強も、いつも同じ机でやっている。覚えたときは手ごたえがあったのに、いざ本番の会場では、さっきまで言えたことが出てこない。

机に向かった時間は足りているのに、なぜ会場だと引き出せないのでしょうか。

原因の一つは、覚えた内容が「勉強した場所」と結びついているからかもしれません。だとすれば、場所を散らして覚えるほうが、どこでも思い出しやすくなります。

記憶は「覚えた場所」と結びつく

古い実験に、こんなものがあります。

ゴッデンとバドリーは1975年、ダイバーに単語リストを覚えてもらいました。覚える場所は、陸上か水中のどちらか。掲載誌は British Journal of Psychology です。

そのあと、覚えた場所と同じ環境で思い出すか、違う環境で思い出すかを比べました。

結果、同じ環境で思い出したほうが、成績が良かったと報告されています。陸上で覚えたなら陸上で、水中で覚えたなら水中で、よく出てきたのです。

つまり記憶は、覚えたときの周囲の環境と、いっしょに残ることがある。これは文脈依存記憶と呼ばれています。

同じ量でも、場所を分けると残りやすい

この性質は、裏返すと勉強のヒントになります。

スミスらは1978年、同じ単語リストの覚え方を2通りで比べました。掲載誌は Memory & Cognition です。

一方は、同じ部屋で2回くり返して覚える。もう一方は、違う2つの部屋で1回ずつ覚える。学習の量は同じです。

そのあと、どちらのグループも、覚えた場所とは別の部屋で思い出すテストを受けました。

下の図が、その結果です。

同じ単語リストを、同じ部屋で2回学習した場合と、違う2つの部屋で1回ずつ学習した場合を比べた棒グラフ。別の部屋でのテストで思い出せた語数は、同じ部屋で2回のとき平均15.9語、違う2部屋で1回ずつのとき平均24.4語で、場所を分けたほうが多く思い出せたことを2本の棒の高さで示している
図1: 学習量が同じでも、覚える場所を分けたほうが多く思い出せた(当サイト作成・実験1の平均値をもとに作図)

見てのとおり、思い出せた語数は、同じ部屋で2回だと平均15.9語。違う2部屋で1回ずつだと24.4語。場所を分けたほうが、1.5倍ほど多く出ています。

学習にかけた回数も時間も同じ。違いは「どこで覚えたか」だけです。

これも多くの人を平均した傾向で、効き方には幅があります。断定ではなく「そういう傾向がある」として受け取ってください。

なぜ場所を変えると強くなるのか

筋道はシンプルです。

一つの場所だけで覚えると、その場所の手がかり(机の眺め・窓の光・まわりの音)に、記憶がぶら下がります。本番の会場には、その手がかりがありません。だから引き出しにくくなります。

複数の場所で覚えると、特定の場所への依存が薄れます。どの手がかりにも頼りきらないぶん、初めての場所でも思い出しやすくなる、という理屈です。

覚えたことを「思い出す」練習そのものの効き目は、本を閉じて思い出す勉強法にまとめています。

ここは慎重に受け取ってください

心強い話ですが、いくつか条件があります。

まず、この効果は毎回きれいに出るわけではありません。先ほどのダイバーの実験は、2021年の追試では同じ結果が再現されませんでした。効果はあっても、大きくはないと考えるのが妥当です。

テストの形式でも変わります。スミスらの実験では、書いて思い出すテストで差が出た一方、選択肢から選ぶテスト(再認)では、場所の効果はほとんど出ませんでした。マークシート中心の試験では、恩恵は小さいかもしれません。

覚え方の中身も効きます。多数の研究を束ねたスミスとベラのメタ分析では、意味のつながりや強い手がかりがあると、環境の影響は弱まると報告されています。丸暗記に近い単語や用語ほど効き、しっかり理解した内容には、あまり効かないという見方です。

効き方には個人差があります。ここで扱うのは覚えたことの引き出しやすさの話で、学ぶことそのものがつらい状態への対処ではありません。

今日から試す手順

やることは、覚える場所を1か所に固定しないだけです。道具もお金もいりません。

  1. 場所を回す:いつも自室なら、次の復習はカフェや図書館で。2〜3か所をローテーションする
  2. 思い出す練習と重ねる:ただ読み返すより、本を閉じて思い出す。それを違う場所でやると効きめが重なる
  3. 本番の場面を思い浮かべる:会場に行けないときは、目を閉じて「本番の席で解いている自分」を思い描いてから思い出す

3つ目は、頭の中で場所を再現するやり方です。メタ分析でも、学習時の場面を思い浮かべると記憶が戻りやすいと報告されています。本番の会場を練習で再現できないときの、次善の一手になります。

うまくいかない日もある

場所を変えても、すぐに手ごたえが変わらないこともあります。効果は保証されたものではなく、「出やすくする」工夫の一つです。

とはいえ、費用もリスクもありません。いつもの机を1回、別の場所に替えてみるだけ。それで損はしません。

間隔をあけて復習する分散学習と組み合わせると、同じ勉強時間から残るものがさらに変わってきます。学び方そのものを鍛える発想は、学びの柱でまとめています。

次の復習を、いつもと違う場所で1回だけ試してみてください。それが、いちばん軽い第一歩です。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. いつも同じ場所で覚えているなら、次の復習は別の場所でやる(自室・カフェ・図書館など2〜3か所を回す)
  2. 覚える練習は「読み返す」より「本を閉じて思い出す」で行い、それを違う場所と重ねる
  3. 本番の場所を再現できないときは、目を閉じてその場面を思い浮かべてから思い出してみる
  4. うまく思い出せなくても責めない。まず1か所増やすだけ試す

出典・参考

  1. Godden, D. R., & Baddeley, A. D. (1975) Context-dependent memory in two natural environments: On land and underwater. British Journal of Psychology, 66(3), 325-331.(ダイバーが陸上と水中で単語リストを覚え、覚えた環境と同じ環境で思い出すほうが成績が良かった。記憶が周囲の環境と結びつくことを示した古典的な実験)eric.ed.gov
  2. Smith, S. M., Glenberg, A., & Bjork, R. A. (1978) Environmental context and human memory. Memory & Cognition, 6(4), 342-353.(実験1では、同じ単語リストを同じ部屋で2回覚えた場合より、違う2つの部屋で1回ずつ覚えた場合のほうが、別室でのテストで多く思い出せた。平均15.9語に対し24.4語。ただし再認〈見て選ぶ〉テストでは文脈の効果は出なかった)sanlab.psych.ucla.edu
  3. Smith, S. M., & Vela, E. (2001) Environmental context-dependent memory: A review and meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 8(2), 203-220.(多数の研究を束ねたメタ分析。環境文脈の効果は全体として認められるが、テスト時に際立った手がかりがあるとき〈outshining〉や、頭の中で学習時の場面を思い浮かべたときには弱まると報告)people.it.tamu.edu
  4. Murre, J. M. J. (2021) The Godden and Baddeley (1975) experiment on context-dependent memory on land and underwater: a replication. Royal Society Open Science, 8(11): 200724.(16人のダイバーで元実験を追試したが、覚えた環境と同じ環境で思い出すほうが成績が良いという元の結果は再現されなかった)pmc.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。