脳トレで集中力は鍛えられる?——1万人規模の実験が出した答え
Focus / Research Digest

脳トレで集中力は鍛えられる?——1万人規模の実験が出した答え

集中力を上げたくて脳トレアプリを続けている。でも上がるのはゲームの腕前だけ、という気もします。11,430人の実験と大規模レビューが示した「脳トレにできること・できないこと」を、限界も添えてまとめました。

集中力を上げたくて、脳トレのアプリを続けている。ゲームの成績は少しずつ伸びています。

でも、肝心の仕事や勉強のほうは、あまり変わった気がしない。ゲームがうまくなっただけかもしれない。

その感覚は、まちがっていません。大きな実験が、まさに同じことを確かめています。

有名な実験が確かめたこと

きっかけは、2010年に科学誌『Nature』へ出た研究でした。イギリスのテレビ番組と組み、オンラインで大規模に調べたものです。

集まったのは11,430人。6週間、週に何度も、推論・記憶・計画・注意などを鍛えるトレーニングに取り組みました。

結果はこうです。練習した課題は、どれも成績が上がりました。ここまでは期待どおりです。

ところが、練習していない別の課題には、その上達が伝わりませんでした。研究チームははっきり書いています。「よく似た課題であっても、伝わる証拠は見つからなかった」。

折れ線グラフのイメージ図。横軸は練習した期間(週)。緑の線『脳トレの点数』は右肩上がりに伸びていく。一方オレンジの点線『日常の集中(訓練していない力)』は、練習を続けてもほぼ水平のまま変わらない。脳トレの上達が、訓練していない力には伝わらないことを表している
図1: 上がるのは「その脳トレ」だけで、日常の集中は動かない(当サイト作成)

見てのとおり、伸びる線と動かない線は、別ものです。ゲームの腕前と、日々の集中は、つながっていませんでした。

効果は「練習した先」まで届かない

この一本の研究だけなら、たまたまかもしれません。そこで、多くの研究をまとめ直したレビューも見てみます。

2016年、心理学者7人のチームが、脳トレ研究を大きく検証しました。結論は3段階に分かれます。

  • 練習した課題は、たしかに上達する
  • よく似た課題への効果は、それより弱い
  • 日常の集中や記憶、遠い課題への効果は、ほとんど根拠がない
同心円の図。中心の濃い円は『練習した課題=確かに上達する』。その外側の薄い円は『よく似た課題=少しだけ』。いちばん外の薄い円は『日常の集中・記憶・遠い課題=ほとんど届かない』。効果が練習した課題から遠いほど小さくなることを表している
図2: 効果は中心から外へ行くほど薄れていく(当サイト作成)

つまり「ゲームを解くだけで、暮らし全体の集中まで底上げされる」という都合のいい話は、証拠が薄いのです。

宣伝を真に受けると、損もします。脳トレアプリのある会社は、根拠のないまま「仕事や学校の成績が上がる」とうたったとして、2016年にアメリカで200万ドルの和解金を支払いました

「効いている」気がするのは、なぜか

やってみると、たしかに手ごたえはあります。それは気のせいではありません。あなたは本当に上達しています。

ただし、上達しているのは「脳トレを解く力」だけです。それは「仕事に向かう集中」とは別ものでした。手ごたえの正体は、この“その場かぎりの上達”なのです。

でも、効果が外へ薄れていく勾配は、裏を返せばヒントです。練習が本番に似ているほど、効果は届きやすい。遠いゲームより、近い作業のほうが、集中は伝わりやすいということです。

いちばん近い練習は、伸ばしたい作業そのものです。

「鍛えられない」わけではない

念のため、行きすぎた読み方は避けます。脳トレそのものが無意味だ、という話ではありません。

集中や注意が、練習でまったく変わらないわけでもありません。たとえば1日10分の瞑想を2週間続けたら気の散りが減った、という研究もあります(くわしくは集中力は鍛えられる)。

はっきりしないのは、あくまで「市販の脳トレゲームを解くと、暮らし全体の集中まで広く上がる」という部分です。上達は、練習したその課題の近くにとどまる。ここが要点です。

いちばん確実な“脳トレ”は、その作業そのもの

だとすれば、答えはシンプルです。集中を上げたい作業があるなら、脳トレという遠回りをやめて、その作業そのものを、集中できる条件で繰り返す。近い練習ほど、効果は本番へ届きます。

言いかえると、脳トレを選ぶより「本当に上げたい作業」を選び直すほうが得です。同じ10分でも、勾配の内側にある“本物の作業”に使う。たとえば、こう置き換えます。

通勤中や休憩にやりがちな脳トレ勾配の内側にある“本物の練習”
暗算・計算ゲーム実際の家計簿づけやExcelの集計を、その場で片づける
単語の並べ替えパズル明日出す営業メールや報告書を、1本だけ書く
記憶マッチングゲーム資格の勉強の過去問を、1問だけ実際に解く

どれも、残るのは「ゲームの上達」ではなく「本番の上達」です。同じ作業だから、勾配の内側にすっぽり入るのです。

あとは、その集中を邪魔するものを減らすだけです。

  1. 机とスマホの邪魔を減らす。視界の物が注意を奪い合います(目に入るものを減らす)
  2. 短い休憩を挟む。長く続けると注意は自然に落ちます(短い中断が注意の低下を防ぐ)
  3. 一度に1つだけやる。切り替えるほど時間と正確さを失います(マルチタスクは速くない)

どれも、アプリに課金しなくても今日から試せます。脳トレに使っていた時間とお金を、こちらへ回すほうが割に合います。

今日からできること

  • 脳トレの10分を、伸ばしたい作業そのものの練習に振り替える
  • 作業を始める前に、スマホを別の部屋へ置いて通知をオフにする
  • タイマーを50分にセットし、鳴ったら一度手を止めて短く休む
  • 今の作業に使わない物を、机から1つだけどける

脳トレを楽しむのは自由です。ただ、日々の集中を変えたいなら、ゲームの外に手を打つ。気が散る環境を整える発想は、集中の柱でまとめています。

ゲームの点数を上げる前に、今日の作業まわりを一つ片づける。そこから始めてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 脳トレの10分を、伸ばしたい作業そのものの練習に振り替える
  2. 作業を始める前に、スマホを別の部屋へ置いて通知をオフにする
  3. タイマーを50分にセットし、鳴ったら一度手を止めて短く休む
  4. 今の作業に使わない物を、机から1つだけどける

出典・参考

  1. Owen, A. M., Hampshire, A., Grahn, J. A. et al. (2010) Putting brain training to the test. Nature, 465, 775-778.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Simons, D. J., Boot, W. R., Charness, N. et al. (2016) Do 'Brain-Training' Programs Work? Psychological Science in the Public Interest, 17(3), 103-186.psychologicalscience.org

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。